当センターでの長年の治療経験をまとめた実践書です。平成18年8月に南江堂から発行され、平成20年5月に第2刷が発行されました。
序文
脊髄損傷(脊損)は日常臨床で頻繁に遭遇する疾患ではない。脊損患者は救急現場から,あるいは慢性期の合併症を抱えて入院してくる。頚髄損傷(四肢麻痺)患者が入院してくるとその病棟は医師も看護師もパニックになるという話も聞いたことがある。また,最近の医療事情から,多くの急性期の患者は救急病院に搬入され初期治療が行われた後,リハビリテーション病院に転院しているようだ。したがって,私たちは脊損医療を経験することが少ないのみならず,急性期から慢性期に至る一貫した医療のあり方を肌で感じる機会がとても少ないのが現状である。
脊損に関する教科書は少なくないが,それらのほとんどが多施設の筆者による分担執筆である。その記載には,急性期の治療が慢性期の管理に連動していないものも少なくなく,また,医師,看護師,PT・OT間の密な連携がみえないように思う。
過去25年間に総合せき損センターにおいて急性期から入院加療してきた脊損患者数は1,900例超となった。その詳細なデータは何にも代え難い宝である。学会などで新しい知見も報告してきた。定説となっていたことに対して疑問を抱かせる事実の発見も少なからずあった。一方,行ってきた治療方針の中には反省させられることもあり,その結果を踏まえながら更なる前進の道を探ってきた。
そこで,この試行錯誤の中で育まれた臨床を何とか脊損医療に携わる方々に伝えるべく,趣向の変わった新しい脊損医療の実践書を出版することになった。まだまだ不十分な箇所も多々あることとは思うが,ようやく臨床に即しチーム医療を見据えた『脊椎脊髄損傷アドバンス -総合せき損センターの診断と治療の最前線』が完成した。執筆者はすべて当センターのスタッフまたは前スタッフであり,その豊富な治療経験に基づいた実践的な脊損診療マニュアルである。チーム医療を柱に急性期から慢性期までが一貫として記述され,当センターのデータも適宜掲載されている。臨床の場でご活用いただきたいと思う。読者からのご助言やご批判をいただく中で,もしご支援あって数年後の改訂を目指すことができれば望外の喜びである。
2006(平成18)年春
芝 啓一郎
主要目次
- 急性期から慢性期までの治療の流れ
- チーム医療
- 急性期の治療の手順と患者・家族への説明の仕方 -突然の麻痺を的確にそして優しく-
- 損傷型分類と病態 -複雑な分類は不要-
- 頚椎(髄)損傷
- 胸・腰椎(髄)損傷
- 急性期における全身への影響とその管理
- 呼吸器系 -呼気障害による痰の貯留に注意-
- 循環器系 -低血圧と徐脈の病態-
- 尿路系 -経尿道カテーテルの長期留置は禁忌-
- 消化器合併症 -潰瘍は見逃しやすい-
- 褥創,関節拘縮 -予防は急性期から-
- 診断と評価
- 診察法のポイント -診察の順番と方法は?-
- 画像診断のポイント
- 麻痺の評価と予後 -麻痺はどこまで改善するのか,そしていつ判断できるのか?-
- 治療戦略 -簡易な外固定での早期離床をめざせ-
- 手術時の基本
- 上位頚椎損傷に対する急性期治療 -多くは保存的に治療可能-
- 下位頚椎・頚髄損傷に対する急性期治療 -術後はカラー固定で-
- 非骨傷性頚髄損傷に対する急性期治療 -原則は保存的治療-
- 胸・腰椎損傷に対する急性期治療 -手術進入法を誤るな-
- その他の損傷に対する治療
- 慢性期の管理と合併症対策 -褥創予防は脊髄損傷医療の基本-
- 合併症別の実際
- 看護法 -脊髄損傷医療でのポイント-
- リハビリテーションの実際 -ここまで自立できる-
- 急性期(全身調整期)のリハビリテーションの進め方
- 回復期・充実期のリハビリテーションの進め方
- 障害者スポーツ・レクリエーション
- ゴール設定とその時期
- 福祉機器と社会復帰
- 福祉機器 -実際に役立つ機器とは(機器開発のノウハウ)-
- 住環境整備 -自宅復帰のポイント-
- 復学・復職マニュアル -生きる喜びをもう一度-
- 脊髄損傷医療の今後 -現状と展望-